「汲み取りのおっちゃんや~」
「わ~い」
小学校2年の僕ら何人かの熱心な
汲み取りのおっちゃんフォロワーは
昼休みの汲み取り口に大集合するのだった。
ぼろい分校の汲み取り口は
恐怖の異次元の海の入り口だった。
まるでバルンガの分泌物の海のごとし。
(僕らのなんやけど。)
それを雄々しく、麦わら帽子にダボシャツにゴム長姿で
ザクの動力パイプみたいな、黒くてかっちょいいゴムホースを抱えて
『ズザザザー』とバキュームカーのタンクに吸い取って行く
汲み取りのおっちゃんは一部の男子のヒーローだった。
またあのバキュームタンクの形状が男子マインドをわしづかみ。
2~3人のおっちゃんの中の親方さんみたいな人が
タバコをくわえながら僕らをまぶしそうに見やり
「また来たんか、ぼんらは。」
みたいな顔で、渋い大人の表情を見せる。
普段、嫌いなバアちゃん先生の授業など
全く聞いてない僕もこの時はコーフンするのだ。
「なあなあ おっちゃん あんね もしも
こん中(汲み取り口)へ落ちたらどうなんの!?
くそーて死んでしまうのん!?」
普段、授業中絶対に質問なんかせえへん僕も
汲み取りのおっちゃんには、渾身の質問をしてしまうのだった。
するとおっちゃんはタバコの煙をゆっくり吐き
「そやなあ。まず窒息するやろな。」
「窒息っ!!!! かっちょえ~!!!」
居並ぶコアな汲み取りのおっちゃんフォロワーの児童たちは
心底どよめくのだった。
「くそーて死んでまう」と「窒息死」の
この子供と大人の余裕の違いのリアルさに
わしら一部の男子は身をよじり感動してしまうのだった。
いまだに「超ひも理論」だの「常温対消滅」だの
「半物質」だの「核融合反応」だのにうっとりしてしまう僕は
あの頃と全然変わっとらん。
あの頃の頭の中はガラモンやカネゴンや
ペギラやセミ人間や科学特捜隊の
ジェットビートルやシービュー号や
サンダーバード2号の事でいっぱい。
「なんでバルタン星人と
ケムール人の笑い声は似てるねんやろ?」
とか、「ジラースはえりまきとられたら
ゴジラに似てる気がするけど気のせい?」
とかそんな疑問でいっぱい。
やがて「窒息 窒息」と
小声で上気してつぶやく僕らに
汲み取りのおっちゃんらは
「ぼんらなあ、汲み取り口に落ちたらあかんで~」
と云いながらバキュームカーとともに
やはり雄々しく去って行くのだった。
それは幼年時代のまぶしい
ときめきの追憶のひとこまなのであった。
(写真はインターネットより。昭和40年代の雄々しきバキュームカーの姿。)
♫汲み取りのおっちゃん♫
「汲み取りのおっちゃんが来たで!」