掌の遠国(てのひらのえんごく)4「幼年期」













                   




                                                              幼年期         

子どもの頃の夕焼けは 
晩御飯のおかずにあった 
紅生姜の天ぷらの色だった。 
一日の終わりは幼児の目に鮮烈だった。 

はやく家に帰らないと 
「コトリが来る」と言われ 
 小型の頭の中では線画のヒヨコみたいな
巨大な小鳥が白黒アニメで登場し 
子どもをくわえて連れて行く妄想して震えた。

子どもなりの人間関係の悩み事がすでにあり 
親に言わない秘密もすでにあった。 

子どもには夜の暗闇は深く 
テレビの「日曜洋画劇場」で怖い映画を観た夜ふけは 
寝静まった家を覆う暗闇に怯えた。 

けれど夢に落ちるといつも 
あっという間に白く眩しい朝になっていた。 

そうしてまた結局、鮮烈な夕焼けが巡って来るのだが 
大人の腰くらいの高さの 
子どもの頭は 
見るもの聴くものに敏感に反応し 
幼年期はまるでワラビもちの中を歩むかのような緩慢さで、
ゆっくりと過ぎて行くのであった。