掌の遠国(てのひらのえんごく)9「草ぼうぼうの広野」

◆草ぼうぼうの広野

(2000年頃書いた文章です) 
友部正人のCBSソニー時代のアルバム 
「どうして旅に出なかったんだ」は、思い出深いアルバムだ。 

たしかバックはスカイドック・ブルースバンドで 
それまで友部正人はずっと、ほぼギター1本で録音してたから 
アルバム全体のにぎやかさと 
ラストの曲「ユミはねているよ」の静けさが特に印象深い。 
  
何度レコードをかけても、ラストの「ユミはねているよ」が 
あの時代の あるいは友部正人の青春の 
エンディングテーマのように聞こえたものだった。 

おととしの四月 
神戸の「ナフシャ」で行われた友部正人のLIVEで 
僕と石山君、スガハラジュテームの三人はPAの助手をさせてもらった。 

初めて身近に友部正人本人と声を交わしたけれど、 
静かなのにものスゴイ人だなと思ったりした。 

今は唄の力を力ずくで行使しているというか 
早く歌い終わってニューヨークへ飛んでいきたいというムードだった。 
  
昔、初めて大阪へやって来たときとか 
高岡で見た街のお祭り騒ぎを、ニューヨークでは 
日々静かに味わっているんだろうなぁ。 

中学生の頃、雨の降る日の薄青い室内で 
友部正人の「にんじん」にレコードの針をおろした時の 
あの一曲目の「ふーさん」の 
ギターとハーモニカが忘れられない。 

僕の歩く道は、知っている道の正反対にあるよ 
と教えられた気がした。 
雨だれの音や、沈黙に似た唄だった。 
  
今はジャズギタリストになった橋本(藤本)裕や 
中学からの友人の関口夫妻や石山君、スガハラジュテームとも 
友部正人の唄をつながりとして、みんな輪を描いてきた気がする。 
  
レッドベリーやウッディ・ガスリーや 
ディランや、友部正人が所々立っている 
草ぼうぼうの広野に 
僕も双眼鏡とギターを手に立っていたいと思う。