掌の遠国(てのひらのえんごく)13「赤鬼」

(インターネットより:昭和の家屋の真夜中のイメージ。)

◆赤鬼◆

「三樹ちゃん、お父ちゃんな

子供の頃に便所で
赤鬼みたんやて!」

五つ上の兄の発言は衝撃的だった。
何でも父が子供の頃
真夜中に便所に行ったら
真っ赤な顔の人が居て
赤鬼!と思ったそうなのだった。

「なあ、お父ちゃん
ほんまに便所に赤鬼おったん?」
半泣きで訊いて来る幼い次男に
父の篠原廣祐(当時38才薬剤師)は

「そやねん。お父ちゃんがな
真夜中便所いったらな
ほんまに真っ赤な顔した
知らんおっちゃんが立っとんてん。」

「そやけどなあ〜、今おもたら
たまたま誰かお父ちゃんの知らん人の顔が
電球の灯りでそう見えたんかもなあ・・
とも思うねん。」

父は何気に語った昔の記憶が
あまりにも自分の幼き子供達を
ビビらせた事に困惑しつつも
理論的論評を加えるのでありましたが・・。

幼児には真夜中の便所は恐怖であります。
ただでさえコワイのに
そこに赤鬼がおった!!っちゅう父の発言は
兄と僕を心底ビビらすのにふさわしい
爆弾発言だったのでした。(^^;)

それ以来随分長く、夜便所へ行くたびに
「赤い顔の知らんおっちゃんがおったら
ど、どないしよ〜」と
ビビり続ける夜が続いたのであります。

そして自分が赤い顔の酔っぱらいのオッサンと成り果てた今
全く平気で深夜の便所で用を足しつつ
ふとそんな可愛いげ溢るる過去を思い出したのですが
もう一つ印象的な赤鬼の思い出が。

それは堺東の変なライブハウスに
週一で唄うのに通っていた20年近く前。
高見ノ里から堺東まで自転車で走っていました。

夏の夕暮れ時、丁度 堺東警察を過ぎた辺りで
ふと空を振り返り見上げると
見事な入道雲が高い空に伸び上がり
夕映えの濃いオレンジ色に映えておりました。

「あ、赤鬼みたい。ユーモラス〜!」
と思った僕は自転車を止めて
いつか唄に作ろうと小さなノートを出して
「赤鬼」という歌詞を書き綴りました。

もう今はノートに歌詞を書かなくなりました。
iPhoneのメールでMacへ送るようになったのですが
その「赤鬼」の歌詞を書いた小さなノートも
どこかへ行ってしまいました。

でもそのおかげであの赤い大きな入道雲は
今でも僕の心にユーモラスに
そびえ立っています。

そして後年作った、「平野川」という唄に
成長の痛みに苦しむ子供を
笑って見守る入道雲になって
現れる事になるのでした。


↑ドクトルミキ 「平野川」動画
詞/曲 ドクトルミキ COPYRIGHT© Dr.Miki ALLRIGHTS RESERVED. 

 

(↓インターネットより:夕映えの入道雲)