掌の遠国(てのひらのえんごく)8「DYLAN and ME」

DYLAN and ME 


昔 NHKで東京の無名フォークシンガーのドキュメンタリーをやっていて 
そのシンガーが「ディラン あんたの子供を身ごもった~」と唄っていた。 

ディランは、ほっとき上手なボスだった。 
もう何年も何年も音信不通になってるけど、今さら唄を聴かなくても 
十分なほど知った気がするでっかい岩石か、地面のようだった。 

高一の時、友達のお姉さんの恋人が
ディランのレコードを10枚程貸しててくれた。 

オヤジが隠してた「インバーハウス」というウィスキーを 
水道水で割ってグビグビ飲みながら、レコードを聴き 
丁度「ハイウェイ61」の”ライク・ア・ローリングストーン”の 
サビの所で酔いとショックがシンクロしてハイになったのを憶えている。   

森のなかの大木がたおれて、そこから多くの植物が芽を出すように 
様々な音楽がディランから生まれた。 
友部正人はディランに会えるだろうか? 
そういえば、今度日本に来るらしいね。ディランも老人になりつつある。 

唄の王の今日の機嫌はどうなのだろう? 
ディランはいつまで死と闘えるだろうか。 
アメリカ人、ディラン。ディランには日本は無関係な土地であり
日本人はよけいに無関係だろう。 

だがディランがディランであるように
君は君であり、僕は僕であれば良いのだ。 
そして、ディランは唄とギターのあつかい方を 
親方のように僕たちに示してくれた。 
なんとよい日々だったろうか。 

                                                        (2000年頃書く)